相談
小学5年生の息子がいます。塾の宿題は出しているのですが、家ではまったく勉強しません。ゲームかYouTubeばかりで、声をかけると「あとでやる」と言って、結局やりません。毎日イライラして怒ってしまい、自己嫌悪になります。どうしたらいいでしょうか?
塾長の聞き返し
「塾の宿題は出している」というのは、家でやっているということでしょうか? それとも、提出はしているけれど…という意味でしょうか?
言葉足らずでした。塾から宿題が出ていて、家でやらせようとしているんですが、本人がやらないんです。前日に私が怒って、泣きながらやる感じで…。
塾長の答え
1. 宿題をやるかどうかは、お子さんの課題です
宿題をやるかやらないかは、お子さん自身が決めることです。怒ってやらせるのは、手伝いのつもりでも、自分で歩くべきところをおんぶしている状態です。
はっきり言います。怒ってやらせることは、基本的に暴力だと考えてください。 強い言い方をするのは、この言葉があれば、怒りそうになったときに自分を止められるからです。
宿題ができているかを確認し、必要な指導をするのは塾の仕事です。そのために塾にお金を払っているのですから。お母さんが前に出てしまうと、塾に通う意味が薄れてしまいます。
でも、宿題をやらないまま塾に行ったら、先生に迷惑をかけるのでは…。
迷惑ではありません。それは先生の仕事です。ことばこの立場から正直に言えば、むしろお母さんが叱って何かをさせようとすることのほうが、塾としては困ります。
ことばこでは、お子さんと話し合い、納得してもらいながら学習計画を進めています。そこへ家で別の課題が加わると、計画が崩れてしまいます。ですから「家では叱らないでください」とお願いしています。
そもそも、お母さんが課題を課してお子さんにやらせることがうまくできるなら、塾に通う必要はありません。
私は個別指導を12年やっています。家庭教師、高校教師10年と合わせれば、教育の仕事は20年以上になります。それだけやっても、「こういう関わり方ならうまくいく」とわかってくるまでに、これだけかかりました。経験のないお母さんが、お子さんと一対一で向き合えば、どうしても力任せになります。力で押さえつけてやらせるのは、支配です。ある年齢まではそれで動くかもしれませんが、結局ずっとおんぶしているだけで、本人の力にはなりません。
2. 課題の分離
私はアドラー心理学を土台に考えています。その中に「課題の分離」という考え方があります。
- 勉強をする・しない → お子さんの課題
- 勉強に取り組めるよう、どう支えるか → お母さんの課題
代わりに勉強することも、無理やりやらせることも、お子さんの課題への踏み込みすぎです。親や先生、塾の役割は次の二つです。
- 最終的な決定権は本人に任せる
- 適切な情報を与え、勉強に取り組める環境を整える
そして、その環境の中に「怒る」は入れてはいけません。 怒られて動くことを繰り返すと、子どもは親の顔色を見て行動するようになります。自分の頭で考え、自分を律して動く力が育たなくなるのです。
3. では、お母さんは何をすればいいのか
怒る代わりに、こう声をかけてください。
「困ったことがあったら、いつでも言ってね」
- お子さんが助けを求めてきたら、手助けする。「ここがわからない」と聞かれたら、答えてあげる。
- 「宿題をやっていなかったら声をかけて」と頼まれているなら、頼まれた範囲で声をかける。
- 頼まれていないことを、こちらから勝手に管理しない。
- 本人が望むなら、「何時から何時は一緒にやろう」と、二人の共通の課題にすることもできる。
ただ、多くの場合、お子さんはそれを望みません。考えてみてください。ダイエットをするとき、誰でもいいからコーチになってほしい、とは思いませんよね。コーチは自分で選びたいはずです。
勉強も同じです。お子さんは教えてくれる人を選びたいのです。そして、お母さんを先生に選ぶ子は、ごく少数です。お母さんをダイエットコーチに選ぶ人がいないのと同じで、これは経験やスキルの問題であって、愛情の問題ではありません。
それでも、ちょっと教える、ちょっと声をかける程度ならできます。そして、お子さんが頼んでくるのは、お母さんにできる範囲のことだけです。子どもはよくわかっています。頼まれていないことは、お母さんにできることの幅を超えているのです。
4. ことばこは、宿題を家に持ち帰らせません
ことばこには、そもそも宿題制度がありません。家でやる形にすると「やった・やらない」の問答になってしまうからです。また、宿題を家できちんとやれる子なら、ことばこでなくても伸びていけると考えています。
ことばこでは、教えたことの演習まで塾の中で完結させます。ただ、個別指導でそれをやると料金がかさみます。だから定額で、週に何回でも通えるようにしています。演習量は、お子さんごとに適切な量に調整します。
家庭に管理を丸投げして、親子の衝突の原因になる宿題のあり方は、私はよいものだとは思いません。
5. 「他の家庭と比べて不安です」
お母さんがどれだけ勉強を教えられるか、どれだけ上手にお子さんと関われるかは、人それぞれです。他の人の助けを一切借りず、お母さんの力だけで導こうとすれば、他のご家庭より不利になることもあるでしょう。
でも、勉強を教えることに素人のお母さんが、それをやる必要はありません。お子さんが「お母さんがいい」と選んでいるなら、塾に通う必要もなく、こういうご相談もないはずです。そういうご家庭は、1割もないと思います。
親子だと、どうしても「怒ってしまう」が前提になります。そこが親子のよさでも難しさでもあります。ただ、叱られてまで勉強を教わりたいと思う子は、小学生にも中学生にもほとんどいません。
厳しい環境を自分で選ぶ場合は別です。強豪校に行きたいという子が、自分で選んだ厳しさの中で伸びるのはいいことです。でも、子どもは親を選べません。その親のもとでしか生活できない中で、怒られながら勉強をやらされるのは、主体性を欠き、自信を損なう関わり方だと私は思っています。
自分でできなくても、適切なサポートを求めることはできます。それは弱さではありません。
最後に
勉強ができること以上に大事なのは、「自分には、課題を乗り越えていける力がある」という自信ではないでしょうか。アドラー心理学では、これを与えることを「勇気づけ」と呼びます。
勉強を通して、その勇気を育てるのか。勉強を通して、その勇気を奪うのか。叱って勉強をやらせ、成績が上がったとしても、自分で課題を解決できる人になるという本来の目的を損なってしまっては、本末転倒です。
お母さんの役割は、勉強をやらせることではありません。お子さんが「自分にはできる」と思えるよう、そばで支えることです。
塾長コラム ─ 学習塾ことばこ 塾長(教員10年・学習塾個別指導12年)