相談
小学5年生の息子は、漢字テストの前に、ノートに何回も書いて練習しています。でも、テストになると書けません。「ちゃんと練習したの?」と聞くと、「やったよ」と言います。たくさん書いているのに、どうして覚えられないのでしょうか。
塾長の聞き返し
お子さんは、どんなやり方で練習していますか? そして、お母さんは、そのやり方を見ていますか?
……正直、見ていません。「宿題やったの?」と聞くくらいで、どうやってやっているのかまでは、気にしたことがありませんでした。
塾長の答え
1. 「書き写している」だけだから、覚えられません
まず、お母さんを責める話ではありません。「やりなさい」とは言えても、勉強の「やり方」までは、親御さんも教わっていません。 多くのご家庭が、そうです。
その上で、はっきり言います。何回書いても覚えられないのは、書き写しているからです。
覚えるとは、自分の頭の中から、記憶を取り出すことです。取り出す作業を繰り返すことで、記憶は定着します。これが、リトリーバル学習(想起学習)の本質です。
手本を見ながら書き写しているとき、頭の中から取り出しているのは、何もありません。目の前に答えがあるからです。10回書き写しても、記憶から取り出した回数は、ゼロです。
私は、10回書き写すくらいなら、1回テストをしたほうがいいと考えています。見ずに、自分の頭から思い出して書く。その1回のほうが、はるかに記憶に残ります。
2. 研究でも、言われています
「思い出す」ことが記憶を強くする、という研究は、たくさんあります。ここでは、代表的なものを三つ紹介します。
① 読み直すより、テストを受けたほうが、1週間後に残る(ローディガーとカーピック、2006)
大学生に、短い文章を学んでもらいました。「もう一度読む」グループと、「読まずに思い出して書く」グループに分けて比べています。5分後にテストをすると、読み直したグループのほうが、よくできました。ところが、1週間後にテストをすると、読み直したグループは42%、思い出したグループは56%で、結果が逆になりました。直後は読み直しのほうが成績がよく見えますが、日がたつと、思い出した学習のほうが、残っていたのです。
② 覚えたあとにも、思い出し続けると、残る(カーピックとローディガー、2008)
大学生が、スワヒリ語と英語の単語40組を覚えました。1回思い出せた単語を、その後もテストし続けたグループは、1週間後に約80%を覚えていました。一方、1回思い出せた単語を、テストから外して、勉強だけ続けたグループは、約36%でした。「できたものは、もうやらない」「できたものも、読み直す」では、思い出す回数が減ってしまうのです。
③ 図にまとめるより、思い出したほうが、1週間後に残る(カーピックとブラント、2011)
理科の文章を読んだあと、「図にまとめる」グループと、「本を閉じて思い出す」グループで比べました。1週間後のテストでは、思い出したグループのほうが、約50%高い結果でした。
ただし、これらは、主にアメリカの大学生を対象にした実験です。小学生の漢字や、日本の家庭に、そのまま当てはまると言えるわけではありません。また、「読み直し」や「書き写し」が、まったく無意味だという研究結果でもありません。私は、これらの研究を、「思い出す回数が多いほうが、効率がいい」という考えを支えるものとして、紹介しています。
リトリーバル学習について、さらに詳しく知りたい方には、スタンフォード大学オンラインハイスクール校長の星友啓さんが解説している、次の動画がわかりやすいと思います。
- 【200以上の研究から評価した効果的な勉強法】線引き・読み直しで暗記はNG/テストは学びを生み出す道具である/スタンフォード・星友啓氏が解説【EDUCATION SKILL SET】 https://www.youtube.com/watch?v=ZcjPV3qhcSA
3. 家でできる、具体的なやり方
やり方は、とても簡単です。
- 一度だけ、書き写してもいい。(手本を見て、書く)
- 二回目は、手本を隠して、書く。(できるかどうかのテスト)
- 書けなかったら、もう一度書き写す。
- また、隠して、書く。
これを繰り返すだけです。書き写さない。隠して、思い出す。 覚える勉強は、テストの形にします。
でも、全然書けない漢字は、どうするんですか?
その場合は、漢字を分けます。 まず、「へん」だけをテストする。次に、「つくり」だけをテストする。それでもできなければ、さらに小さく分けます。全部できなくても、1か所でも自分の頭から出せたなら、それは大きな一歩です。ただ、ここまで細かく分けないと覚えられない子は、実際には、なかなかいません。
4. 「言える」ようになる速さは、驚くほどです
ことばこでは、暗記も、この「思い出す」やり方で進めています。
私の経験では、この方法は、どんな子にも効果があります。たとえば、「暗記なんて絶対に無理」と言っていた子でも、30分あれば、「懸命」を全部、言えるようになります。 一人でやっていると難しいことも、先生と一緒に、隠して、言って、確かめる。それを繰り返せば、暗記は、すぐにできるようになります。
5. 何回も書く勉強は、悪くはない。でも、効率が悪い
誤解してほしくないのですが、何回も書く勉強が悪い、というわけではありません。 逆効果になる、とも言いません。ただ、非常に効率が悪いのです。
それでも、多くの子が何回も書くのは、楽だからだと思います。 手を動かしていると、勉強している気分になれます。頭の中から思い出す作業は、しんどいものです。だから、「しんどいほうが、効果がある」ことを、知らないままになりがちです。
6. お母さんが、まず試してみてください
お母さんご自身が、同じやり方で勉強してきた、ということもあると思います。何回も書く、同じところを何回も読む。勉強が得意だった人でも、実は、膨大な時間をかけて、そのやり方で覚えてきた、という人もいます。
そういう方に、「こうやったほうがいい」と言うと、かえって反発されることもあります。ですから、まずお母さん自身が、試してみてください。 英単語でも、資格の勉強でも、構いません。書き写さず、隠して、思い出す。そのほうが速く覚えられることを、ご自身で確かめてもらうのが、一番早いと思います。
最後に
今日からできることは、三つです。
- 「宿題やったの?」の代わりに、「どうやって練習したの?」と聞いてみる
- 覚える勉強は、書き写しは1回まで。二回目からは、隠して、思い出す
- 漢字が書けなかったら、分けて、小さくテストする
勉強ができること以上に大事なのは、「自分には、課題を乗り越えていける力がある」という自信です。アドラー心理学では、この力を支えることを「勇気づけ」と呼びます。自分の頭から思い出せたという経験は、その小さな積み重ねです。「ここまでは、自分でできた」という実感が、次の課題に向かう力になります。
塾長コラム ─ 学習塾ことばこ 塾長(国語科教員10年・学習塾個別指導12年)