相談
「怒らないで」「叱らないで」と言われても、伝えなければ、子どもは何がいけないのかわかりませんよね? たとえば、小学5年生の息子と「ゲームは1時間まで」と約束したのに、守りません。最初は普通に言うのですが、聞いていないような態度だと、だんだん声が大きくなって、最後は怒鳴ってしまいます。叱らずに、どう伝えればいいのでしょうか。
塾長の聞き返し
約束は、お子さんと一緒に決めましたか? そして、怒鳴ったあとは、どうなりますか?
一応、本人も「わかった」と言いました。怒鳴ったあとは、「ごめん」と言うのですが、次の日にはまた同じことの繰り返しで…。
塾長の答え
1. 約束は、破られる前提で考えてください
はっきり言います。子どもとの約束は、守れない前提で考えたほうがいいです。
親が怒るのは、たいてい、自分と約束したことを、子どもが守らなかったときです。カチンとくるのは、自分が大切にされていない、ないがしろにされた、と感じるからです。
でも、考えてみてください。お子さんとの約束を、お母さんは全部守っていますか? 全部守れている親は、いないと思います。自分が守れているのなら、百歩譲って怒ってもいいかもしれません。それでも、怒らないほうがいいと私は思います。
子どもは、まだ守る力がありません。ずっと守れない、ということではありません。守れるようになるよう手助けしていくのが、教育です。守れない前提で始めるのは、当たり前のことです。
私は、この仕事を12年やっています。守れないことは、経験上、よくわかっています。だから、約束を破られても、カチンとはきません。いちいち怒っていたら、キリがありません。
2. 大人にお願いするように、伝える
では、約束が守られなかったとき、どうするか。
大人と同じように、対応します。
ことばこでの例を挙げます。
- 靴が揃っていないとき:「すみません、靴を揃えてください」とお願いします。怒りません。何度も繰り返されるなら、「申し訳ないけれど、次から揃っていない靴は、玄関の外に置かせてもらいます」と伝えます。
- 勉強中に、他の子に話しかけてしまうとき:「すみませんが、静かにしてもらえますか」と言います。2回、3回と続くなら、「周りの人の迷惑になるので、退出してもらえますか」と伝えます。
どちらも、感情はぶつけていません。お願いして、それでも変わらなければ、決めておいた対応をとる。 それだけです。
これは、アドラー心理学の「課題の分離」(その選択の結末を引き受けるのは誰かで、誰の課題かを分ける考え方。第1問で詳しく書きました)にもつながります。お願いをするのは、こちらの課題。聞くか聞かないかは、お子さんの課題です。
でも、そうやって優しく言うだけで、本当に直るのでしょうか。
直るかどうかよりも先に、怒られないんだ、とわからせることが、大事です。怒られないとわかって、はじめて、子どもは安心して、本当のことを話せるようになるからです。
3. 守れなかったときは、「次どうするか」を一緒に考える
勉強でも、同じです。
たとえば、「今週はこの計画でやろう」と決めたのに、途中でやらなかったとき。
- 本当に体調が悪そうなら、しかたがないので、帰ります。
- だらけてきて、適当に終わらせたい様子なら、「ちょっと話をしようか」と声をかけます。
計画が守れなかったとき、私は、そもそも計画に無理があったのではないかと考えます。「こんなにやれたらいいね、という話だったけれど、ちょっと無理があったかな」。そして、本人と相談します。
「80点を取りたいなら、ここまでこなさないと難しい。どうする?」
目標を下げるのか。今日やる量を減らすのか。土日にまわすのか。「80点は下げたくないから、今日やります」と言う子もいれば、「目標を下げて、できる範囲でやります」と言う子もいます。どれを選ぶかは、本人です。
やることは、約束が守れなかったとき、次はどうするかを、一緒に考えること。ただ、それだけです。
その中で、私からは、提案を、無限にします。「こうすれば、頑張れるんじゃない?」「こういうやり方にしたら?」。たくさんの子を見てきているので、知恵はあります。信頼関係があるので、子どもたちは聞いて、「確かに」と、やってみます。それを、12年間、ずっと繰り返しています。
4. 叱らないと、子どもは正直になります
叱らずに伝えると、子どもたちは変わります。
何かやらかしたとき、子どもは、たいてい「叱られる」と思っています。たとえば、授業中に、ほかの子の答えを勝手に持っていって、騒ぎになったとします。私が後から報告を受けて、その子に「ちょっといい?」と声をかけると、その瞬間、向こうは怖がります。叱られると思うからです。
自分がまずいと思っているときは、たいてい、嘘をつきます。そこで、私は怒らずに、事実を確かめます。「こう聞いたけれど、どうだったの?」。ほかの子にも聞いて、確かめます。
これを繰り返すと、だんだん、正直に話すようになります。怒られないのだから、嘘をつく意味が、なくなっていくのです。
そして、「君の味方だよ」と伝えていきます。一方的に味方をするわけではありません。他の子とうまくやっていけるように、勉強がうまくいくように、社会でうまくやっていけるように、それを助ける味方、という意味です。
だから、親御さんにも、はっきり言います。親の味方をするだけの先生ではありません。親が理不尽なことを言っていたら、子どもを守る。それは、子どもからの信頼になります。逆に、子どもが勝手なことを言って、親の言うことを聞かないときは、親御さんにも「こうです」と、はっきり伝える。すると、親御さんも、安心されます。決して怒りません。でも、言うべきことは、両方にちゃんと伝えます。そうして、信頼関係が生まれて、反応が変わっていきます。
5. カッとなってしまったとき
でも、頭では分かっていても、カッとなってしまうんです。
その場では、無理だと思います。ムカつくのは、しかたがありません。我慢できなくても、しかたがありません。怒りは、誰にでも自然に湧きます。
大事なのは、次です。
怒ってしまうパターンは、たいてい、決まっています。「約束を破られた」「宿題をやっていない」。次も、同じパターンが来ます。ですから、次のパターンに備えて、先に対応を決めておいてください。
同じパターンで、お互いにむきになって、同じことを繰り返すのではなく、「次にあれが来たら、こう対応しよう」と、準備しておくのです。
それでも怒ってしまう日は、あります。そのときは、怒り方について謝ってください。「大きな声を出して、ごめんね」。伝えたかった内容まで、取り下げなくてかまいません。
最後に
今日からできることは、三つです。
- 約束は、守れない前提で考える。守れなかったら、「どうする?」を一緒に考える
- 大人にお願いするように、お願いして、それでも変わらなければ、決めておいた対応をとる
- カッとなるパターンは決まっているので、次のパターンに備えて、対応を先に決めておく
勉強ができること以上に大事なのは、「自分には、課題を乗り越えていける力がある」という自信です。アドラー心理学では、この力を支えることを「勇気づけ」と呼びます。叱られて動くことを繰り返すと、お子さんは、自分で決める前に、お母さんの顔色を見るようになります。
怒られないとわかった子は、正直になります。正直に話せる子は、自分で、次を決められます。叱らずに伝えるというのは、その土台を作ることだと、私は思います。
塾長コラム ─ 学習塾ことばこ 塾長(国語科教員10年・学習塾個別指導12年)